スカーレットの悪女
「赤星、婚姻届準備してくれへん?」



そう伝えようとしたら、望月さんが私の背後に向けて話しかけたから振り向いた。


すると畳の上を音もなく歩く赤星さんがいて、相変わらずの気配のなさに幽霊じみた恐怖を感じた。



「誰と誰の婚姻届ですか?」

「俺と実莉の」



わたしが知る限り、いつも仏頂面で朴訥な赤星さん。


しかし、その質問にはさすがに眉間にしわを寄せた。


これで動じなかったら逆に心配するところだけどよかった。


彼も人並みに感情はあるみたい。



「……あなた、本当に非道の覇王と恐れられる望月大希ですか」



わたしは無言で頷いてその質問に共感した。



「冷酷な帝王とかなんとか言われる荒瀬志勇が壱華に恋したんやで?俺もそんな感じ」



そういうと彼は赤星さんに向けて、とてもヤクザとは思えない優しい微笑みを浮かべる。


笑うとさらに美しさが増して目のやり場に困る志勇と違って、望月さんは少し幼く感じて母性を刺激するタイプだ。


まずいな、実莉の好きなタイプだ。実莉は昔からワイルド系だけどギャップがあって笑顔のかわいい俳優やアイドルを推していた。


そして好きなタイプは一貫して“パパみたいに包容力のある人”。


実莉は末っ子気質で甘えん坊だから、望月さんは年上で包容力があって相性は抜群かもしれない。
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