スカーレットの悪女
「うわぁ、めっちゃええ匂いする」



一度オーブンを開けてから、もう少し焼き目をつけようかなと再びオーブンに戻すと、このタイミングで大希が帰って来た。


思ったより帰って来るの早かった。むっと顔をしかめると、大希がキッチンを覗き込んだ。



「俺の部屋でなんしてん」

「オーブン借りてアップルパイ焼いてるの。赤星さんが貰い物のりんご余ったっていうから」

「そうなん、じゃあ今日は紅茶出すわ」



大希は私が部屋にいることに特に驚くことなく、脱いだ上着を玄関横のウォークインクローゼットにかけに戻る。


それを横目で見守りながら、なんか同棲カップルみたいな会話をしてしまったなと反省した。



「あとどれくらいで焼けるん」

「10分くらいかな」



手を洗って戻ってきた大希は、私といっしょにオーブンを覗き込んで目線を合わせる。


何気なく大希の顔を見ると、視線が私に向けられた。


大希が私を受け入れてからは、その目は怖くなくなった。


ただ、じっと見つめるから何を言いたいのか分からず首を傾げると、大希は口角を上げた。
< 559 / 807 >

この作品をシェア

pagetop