スカーレットの悪女
「理叶、大丈夫かよ」



部屋を出た理叶に追いついて肩を掴むと、床に視線を投げたまま立ち止まった。



「……理叶?」

「本当に望月大希が信頼できる男なら、実莉は大阪にいた方がいいと思う」

「それって、本心?」

「実莉にとっての俺は、優しい友人でありたい」



理叶は実莉との日々を懐かしむように微笑む。


今にも泣き出しそうであまりにも痛々しい笑みだった。



「綺麗な記憶のまま遠い場所に行って欲しい」



荒瀬兄弟は理叶のことを、倫理観の欠如した化け物だと腫れ物扱いしているが、この顔を見ても同じことが言えるんだろうか。


理叶は繊細で優しい男だ。だからこそ家族や親しい人間を傷つけまいと、内に潜む怪物を理性でコントロールしている。


人一倍優しくなけりゃ、本心じゃないくせに好きな女の幸せを願えるかよ。
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