スカーレットの悪女
「……光冴さん?」



その時、不意に後ろから何者かに話しかけられた。


この声、凛太朗か。


振り返ると小さな体の少年が俺を見上げていた。


家族を失う壮絶な経験をしたせいか、凛太朗は雰囲気が変わってしまった。


よく笑っていた印象だったのに、今では表情は凍てつき感情の起伏がまるでない。



「ああ、凛太朗……」

「顔色悪いですよ、大丈夫ですか」

「俺は凛太朗の方が心配だよ」



小さな体に壊れそうなほどの喪失感を詰め込んで、極限状態で生きているのを肌で感じる。


心配だと顔を見てはっきり口にしても、凛太朗は目線ひとつ動かさなかった。



「凛太朗、苦しかったら俺たちに吐き出していいから」

「今は気が張ってるので大丈夫です。全部終わったら甘えるかもしれません」



言葉をかけ続けるとようやく笑ってくれたけど、胸をしめつけられるような儚い笑みだった。



「死ぬなよ、凛太朗」

「まだ死ねません」



凛太朗はすれ違いざまに会釈すると、廊下を進んで荒瀬志勇の部屋に向かった。
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