スカーレットの悪女
「はあ、どっと疲れた……」



雅が帰ったのは壱華へのクッキーを包み終わった後。


残ったクッキーを見て「それ大希さんにあげるんやろ」とか詰め寄られてマジでだるかった。


あんまりにうざいから口にクッキーを詰め込んでやったら「味はまあまあやな」って言うからなんだかんだ素直な人間なのかもしれない。



「けどちょっと仲良くなったな。あとひと月おったらいいコンビになりそうやん」

「私はあと一週間で東京に帰るんですけど」



大希は私と雅に仲良くなって欲しいらしく、犬猿の仲もいいところなのにこうやってよく引き合わせる。


何を考えているんだかと大希に視線を向けると、なぜかさみしそうな顔で私を見つめていた。


ずるい男だ。そうやって切ない表情を作って、女の母性本能を揺さぶろうとする魂胆は見え見えなのに。



「実莉、大阪に残らへん?」

「まだその話するの?」

「俺、実莉のこと諦め切れそうにないんやけど」



そう来ると思ったけど、実際言われると迷いが生じるようになった。


でも、絆されたらおしまいだ。私は壱華の行く先を見守れないどころか、暇つぶしのための籠の鳥になってしまう。



「何度も言ったけど、私は壱華が大事だから」

「そうか、悔しいけどしゃーないな」



また押し問答が続くのかと内心覚悟したつもりが、やけにあっさり引き下がるから逆に怪しい。


眉間にしわを寄せてその後の動向を観察。すると「目ぇ吊り上がって猫目になってんで」なんて気の抜けた笑顔を見せる。


あと1週間したらこういうバカみたいなやり取りはできなくなるんだと考えると、ほんの少しだけ切なくなった。
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