スカーレットの悪女



大希がどんな手段を使っても絶対に東京に帰る。


そう身構えていたけど、その後大希に口説かれるとはなく、怪しんでいるうちに東京に帰る前日になってしまった。


やっぱり興味本位で私に近づいてきただけだったのか。


本気にしてしまうところだった、危ない危ない。


ほっと胸をなでおろしたけど、ほんの少し胸が痛いのは大希に絆されていた証拠だろう。



「丞のアニキ!お世話になりました」



そんな切ない気持ちを振り切り、私は笑顔で西雲の男たちに挨拶回りをしていた。


たまたま廊下で見かけた赤星に挨拶をすると、彼は立ち止まって珍しくきょとんとした顔をした。


そして眉をひそめると、不可解だとでも言いたげに首を傾げる。



「あなたは姐さんになるんですから、私に対して“アニキ”はおかしいでしょう」



赤星は側近なのに大希の冗談を真に受けて勘違いしているようだ。



「だから、なりませんって」

「へえ、まだ大希から逃げられるとお思いで?」

「気の迷いですよ、大希が私を猫可愛がりするのは。現にまったく言い寄って来なくなったし」

「もしかして、押してダメなら引いてみろって言葉をご存じないです?」



もしや素っ気ないのって作戦の一環?


仮にそういう作戦だとしても極端すぎでしょ。


私が東京に帰ってしまえば大希の負けなのに。
< 581 / 807 >

この作品をシェア

pagetop