スカーレットの悪女
「やめて、っ、やだ!」



異変に体をよじらせると、大希は首筋に吸い付くのをやめて、私の背に腕を回して密着するように抱きしめる。


しばらくそうしていた大希は、ふと体を引き離すと私の顔を覗きこんだ。



「……実莉、好き」



明確な好意を直接投げかけることはこれまでなかった。


動揺して目を泳がせると、大希は困ったように笑う。



「もし壱華の人生が実莉と関係なかったら、俺のこと選んでくれた?」

「……」



その問いに答えは出せない。


否定すれば嘘になるし、認めれば壱華のそばにいられなくなる。
迷った挙句無言を貫いたけど、大希は朗らかに笑っていた。



「そうやって迷ってくれただけでも嬉しい。ありがと」



大希は私の頬にそっと唇を寄せると、最後のふたりきりの時間を噛みしめるように強く抱きしめる。


その手つきに、その視線と声音に、どうしてパパの面影を感じるのか。


深まる謎は最後まで分からず仕舞いだった。
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