スカーレットの悪女
「実莉、これ巻いとき」



でも、重要な場面を見守ることができないのはもどかしい。


もどかしさが顔に出ていたのか大希が近付いて来て、自分のマフラーを私の首にかけた。



「なんで?」

「預かっといて」



そう言って大希は私の頭をぽんぽん撫でる。


このマフラー、大希の匂いがして落ち着く。


手触りのいいマフラーに視線を落としているといつの間にか玄関には誰もいなくて、ぽつんとその場に残されていた。


私は閑散とした廊下を歩いて勝手に応接間に入った。


ソファに座って静寂に身を預ける。


すると、これで本当に大希とお別れか、と感傷に浸る自分がいることに気が付いた。


さみしいけど、近々志勇は壱華にプロポーズして3月には結婚式を挙げるだろうからこれから忙しくなるはずだ。


原作通りの流れなら、壱華のお腹に新たな命が宿ることになるわけだし。


楽しみなことでいっぱいだ。


それなのにどうして目をつぶると大希の笑顔が浮かぶのだろう。


マフラーのせいかな。うん、きっとそうだ。


自分に言い聞かせて目を伏せたままでいると、静けさに眠気を誘われて私はいつの間にか意識を手放していた。
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