スカーレットの悪女
表情の意味が分からず、志勇に視線を向けると苦虫を噛み潰したような顔で、ため息混じりに口を開いた。



「絆されるとは思っていたが惚れるとは微塵も思ってなかった」



……惚れる?誰が誰に?なんの話?


情報が断片過ぎて理解不能だ。


首を傾げると志勇は肩をすくめた。



「望月は、荒瀬に金輪際不用意に近づかず壱華に未来永劫手出ししない条件として、お前を大阪に連れていきたいそうだ」

「……え?」



説明されても疑問は深まるばかりで、私はぎこちない笑みを携えて訊き返した。



「ちょっと待って、どういうこと?」

「俺は壱華に未練ない。けど、頭の硬い老害どもはしばらく壱華に執着するやろうから、代わりの花嫁が必要やねん」



志勇に詰め寄ると、なぜか大希が口を開いた。


ようやく事態を飲み込んで、バタフライエフェクトが本当に思いもよらない明後日の方向に作用していることを知った。



「壱華の代わりに、私を人質にするってこと!?」


つまり大希は、はなから私を手放す気は毛頭なかったってこと?


でも、壱華の代わりの嫁が必要とか、原作ではそんな設定なかったじゃん!


荒瀬と西雲間で不可侵条約的な誓約を交わして終わりだったじゃん!


待って、そしたら私、壱華と引き離されるってこと?


こんな結末、納得できない!


焦る私と対照的に、大希は落ち着き払った様子で近づいて上から私を見下ろしていた。


そして不意に勝ち誇ったように口角を上げ、猫かぶりしていた虎はついに牙をむき出しにした。





「なんやその顔、この俺が狙った獲物をやすやすと逃がすわけないやろ」



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