スカーレットの悪女
「その間に私が逃亡したらどうするの?」

「せやったら、壱華は荒瀬志勇と婚約破棄して俺に嫁いでもらうことになる。大好きなお姉ちゃんを不幸のどん底に落とすことになるなあ」



今すぐ覇王の花嫁なんて役目を逃げ出したい。


しかし壱華が関わってくるとなると話は別だ。


どうやら私は、運命の歯車のパーツに組み込まれてしまったようだ。


私というパーツが抜け落ちると、たちまち壱華の幸せは崩れ落ちてこれまでの苦労が水の泡になってしまう。



「卑怯者……」

「あっは、その顔ゾクゾクする」



状況は把握できた。だけど心の準備ができなくて元凶の大希を睨みつける。


すると大きく口を開け牙を見せて笑い、その後笑みを含ませたまま熱を孕んだ視線を向ける。


その蠱惑的な笑みを目の当たりにした壱華がきゅっと口を結び、なぜか颯馬が背筋を伸ばした。


分かるよ、ギャップがえぐいのよこの男は。



「早いとこ俺のこと好きって認めた方が自分のためやで」



壱華でさえ惑わされるなら、私が拒むなんて不可能に近い。



「ほら、もう俺のこと拒めんのやろ?」



大希は私の頬に指を滑らせ、愛しさを瞳ににじませて首をかしげる。


私は大袈裟に口を尖らせて顔をしわくちゃにした。



「キス待ち?」

「だから違うってば、大希のばーか!」

「あっはは、ムキになればなるほど図星なんやって認めてるようなもんやから」

「もう喋らないで、勘弁して……」



もうダメだ。この男が私に飽きない限り勝機も逃げ道もない。


口論の末、私はついに白旗を上げた。
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