スカーレットの悪女
今を生きることに無我夢中で、大人になった自分の姿すら思い描けない。



「実莉はもっとわがままに生きていいんだよ」

「壱華……」



壱華は分かっていたのだろう。


私が時折思い詰めて、なんとか壱華だけ生き延びる手段はないかと自分の命を蔑ろにしていたことを。


もっとわがままに、か。


原作の実莉を遠ざけるばかり、私は自分の幸せをおざなりにしていたのかもしれない。



「だったら私、残り1か月間で後悔しないように壱華とたくさん思い出作りたい！」



でも結局、私の幸せは壱華の幸せの上に成り立ってる。


そう言って志勇をチラチラ見ると、察してくれたようで短くため息をついていた。



「事前にスケジュールを決めて俺に申請するなら許してやることもない」

「なんであんたの許可がいるの？私のお姉ちゃんだってば！」



壱華を巡って勃発するこんなやり取りも今は楽しい。


志勇も同じことを思っていたようで、無愛想な顔が突然崩れて柔らかい笑みに変わる。


それは新緑の隙間から降り注ぐ木漏れ日のようで、冷えきった心にじんわりと響くあたたかい笑みだった。
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