スカーレットの悪女
思いもよらない告白に戸惑って目を見開いた。


理叶から想いの丈を打ち明けられることなど終ぞありえないと思っていた。


ただ、その思いが過去形ではないことは、第三者から見ても明確だった。



「本当は伝えるつもりはなかった。実莉を困らせたくないから」

「困るだなんて、そんなこと……」



こういう時ほど気丈でいなければいけないのに、動揺が伝わるような言葉を選んでしまう。



「でも、俺じゃ実莉を幸せにできない。それはずっと前から分かってた」



私の言葉を遮るように顔を上げて笑った理叶。


その目元には涙が光り、やがてそれは雫となって理叶の頬を伝った。


理叶は自身が泣いていることに気付くと、次第に表情を崩し静かにすすり泣く。



「理叶……」



手を伸ばし慰めようとして、不意に視界がぼやける。


涙に濡れた瞳で瞬くと、大粒の雫が伸ばした腕に滴り落ちた。


思わず手を引っ込めてしまい、私は手を伸ばせば届く距離にいる理叶を眺めることしかできなかった。


だって、この場で抱きしめるのは違う。


理叶は曖昧な関係を清算するために、あえて“好きだった”と過去形にしたのに。
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