スカーレットの悪女
「大阪でも人質扱いなのに3日目くらいから爆睡かましてたらしいですね。相変わらずの肝の太さに尊敬します」



いや、夢じゃないっぽい。


私が知ってる生意気で口が達者な凛太朗そのものだ。


どのツラ下げて戻って来たんだと罵られても仕方ないと思ってたのに、想像のはるかななめ上からの登場にパニックになった。



「え、えっ、凛太朗……!?」

「なんですか、幽霊でも目撃したみたいな顔して」



布団をめくって勢いよく起き上がると、そこにいたのはまさしく凛太朗だった。


ただ、私が知っている凛太朗よりやつれていて顔色が悪い。


目つきが鋭くなっている気がして、兄の死は彼の人相を変えるほどのショックだったのだと改めて痛感した。


「凛太朗、その……」

「おかえりなさい、実莉さん」



凛太朗の顔を見つめたまま言葉に詰まってしまった。


しかし見つめ合っていた凛太朗の目がだんだん細くなって、口角を上げると眉を下げて安らかに笑った。


優人の最期の笑みを彷彿とさせる表情に体が強張る。


どうしよう、私も笑ってただいまって言いたいのに、喉の奥がつっかえてうまく発語できない。



「ただいま……」



唖然としたまま挨拶すると、凛太朗はベッドに腰掛ける私に近づいて来た。



「実莉さん、まず俺から話してもいいですか」



そう言うと足を止め、そして深く頭を下げた。


行動原理が理解できず"頭を上げて”と声に出そうとしたけど、凛太朗の手が細かく震えていることに気が付いて口を閉じた。


頭を下げた背中が呼吸によって上下し、息を吐くと同時に凛太朗は声を発した。




「兄ちゃんとふたりきりの時間を設けてくれてありがとうございました」
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