スカーレットの悪女
凛太朗は頭を下げたまま動かない。


感謝を述べられるなんて思ってなかった。


むしろお前のせいだと責められる気がして怖かった。


だから昨日凛太朗に会いに行けなかったのに、自分から私を訪ねてくるなんて。


私はどう声をかけていいか分からず、凛太朗のつむじを眺めながら何か声を発さないと、そう思って口を開いた。



「そんな……顔を上げてよ。私は……」



私は、優人を助けることができなかった。


運命に抗うことができなかった。


ありがとうなんて、私がもらっていい言葉じゃない。


すると凛太朗は顔を上げ、戸惑う私を見てうっすら笑った。



「だけど実莉さんのおかげで、兄ちゃんと向き合うことができました。それに、立場が逆なら俺も同じ道を選んだと思います」



……そんなこと言わないで。


私の目的はふたりを救うこと。どちらかじゃなくて、兄弟そろって冬を超えて春を迎えられると信じていたのに。



「だけどずっと気になってることがひとつあって。これだけは教えてくれませんか」



不甲斐なさに落胆してうつむいたけど、その問いかけに顔を上げた。
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