スカーレットの悪女
「……何?」

「兄ちゃんは最期、なんて言ってましたか?」



そうだ、凛太朗は兄の死に目にすら会えなかったんだ。


ならば私はそれを伝える義務がある。



「“凛太朗をよろしく”って、そう言われたよ」

「そうですか……兄ちゃんらしいな」



凛太朗の顔をまっすぐ見て伝えたその時、彼の青白い頬が日差しを反射して光った。


流れ出た涙をそのままに、凛太朗は深く息を吸って目をつぶった。



「苦しかっただろうな、兄ちゃん……」

「……」

「優しすぎたんだよ」



凛太郎は兄の背を見つめるように遠くに視線を投げ、苦し紛れに笑いながら彼の気持ちを想像する。


否定も肯定もできず、流れ出る涙を視線で追う。


私も壱華が大事だから、凛太朗の気持ちが痛いほど分かる。


たまらず凛太郎を抱きしめ、共感すればするほど悲しくなってさめざめと泣いた。


凛太郎は泣きながら、そんな私の背中をさすってくれた。



「ごめん、私のこと気遣ってくれて。凛太朗が一番つらいのに」

「泣きすぎでしょ、ただでさえ浮腫んでるのにもっとひどい顔になりますよ」



行動は優しいくせに、言葉は一丁前に生意気。


まったく、人が気にしてること言わないでよね!



「もう、かわいくないなぁ!」

「意地悪言ってすみません。でも、こんなに素直でいられるの実莉さんの前だけですよ」

「知ってるよ、私たちよく似てるもん」



でも、凛太郎らしくて安心する。


自分らしく振る舞えるなら、私がここにいる意味はそれだけで十分かな。


私たちは互いにいたずらに笑い、そっと体を抱き寄せてふたりで優人を想って泣いた。
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