スカーレットの悪女
熱い、痛い……さっきからずっと意味が分からない。


こんなこと、原作にはなかったはずなのに。



「実莉、どうしよう……そうだ止血……止血しなきゃ……」



うろたえる壱華の目が潤んでいる。


……あーあ、安心させたかったのにそんな顔させてしまうなんて。


痛みで朦朧とする意識の中、情けなくて後悔ばかりが頭に浮かんだ。



「実莉、救急車を呼んだからね。しっかりして、大丈夫だよ」

「……」

「お願い、わたしを独りにしないで……」



タオルで押さえて止血しながら、大粒の涙を流す壱華。


頭が回らなくて気の利いた言葉をかけてあげられない。


血がどれだけ出ているのか分からない、ただひたすら痛くて手足が冷えてきた。


もしかして私……このまま死ぬ?



「おい……これはどういうことだ」



その時だった。


頭上から聞こえた、深みのある男の声。


黒い服に身を包んだ大きな体躯に、畏怖を覚えるほど整った顔。



私たちを覗き込んでいたのは志勇だった。
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