スカーレットの悪女
靴を脱いで玄関に上がり、護衛の人が持っていた私のキャリーケースは丞さんに手渡された。
私は身軽のまま大希と並んで歩いて離れに向かう。


カードキーで離れのロックを解除すると、広い玄関には先に送っておいた私の荷物が山積みになっていた。


遠慮なく私物を送らせてもらったけど欲張りすぎたかな。荷解きするの大変だ。



「荷物は後にしてこっちおいで」



荷物を見つめていると先に靴を脱いだ大希が手招く。


「お邪魔します」と呟いて部屋に上がり、その広い背中の後を追った。



「ここ、実莉の部屋やから」



案内されたのは6畳ほどの日当たりのいい部屋だった。


潮崎にいた時と同じくらいの大きさの部屋だ。これなら荷物も納まりそう。



「元は親父の部屋やったけど、実莉と同棲するからここに放ったらかしにしてた山積みの書類全部捨てたったわ」

「お父さんと2人暮らしだったんだ」

「親父が再婚するまでの話やけど」

「えっ、再婚してたの?」



どうやらここは原作には登場しなかった大希の父親、西雲会統帥の部屋らしい。


しかもまったく情報になかったけど再婚してたんだ。


てっきり壱華の生みの親、幹奈が別の男と駆け落ちて逃げられてからは結婚してないと思ってた。



「せやで、10年前くらいの話」

「てことは、17歳からこの広い離れで一人暮らし?」



10年前に父親が再婚してから、この平屋で贅沢に一人暮らしか。


でも大希の性格上、ひとりきりなんて寂しかったんじゃないのかな。


案外人懐っこくて気を許した相手には甘えるタイプだし。



「せやな、自由気ままに一人暮らし」

「さみしくなかった?」

「そん時は独りの方が都合よかってん。余計なこと考えんでええし」



さみしさに関して問うと、少し切なさを含んだ声音で返答された。


苦労してきたんだな、そう思うと母性本能が刺激されて大希を愛おしいと感じてしまう。


この感情はどうやらバグではないらしい。


分かってはいるけどやっぱり認めたくなくて、大希から視線を外して部屋を眺めた。
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