スカーレットの悪女
「どしたん、気抜けた顔してんで」



些細な変化でも大希には筒抜け。手を差し伸べた大希は顔を上げさせ目線を合わせた。



「……実感がなくて」

「えー?俺はこの日を待ち望んでたのに?」



声に出さずとも、熱を孕んだ目で見つめられたら待ちわびていたのだと一目瞭然。


熱烈で直情的な感情を向けられることには慣れていない。


私はとっさに持っていた紙袋で顔をガードした。



「とりあえずこれ、東京土産」

「律儀やん。赤星、受け取って」



大希は自分が受け取らず、丞さんに受け取るよううながす。


丁寧に頭を下げて紙袋に手を伸ばした彼は、受け取ると同時に私と顔を合わせた。



「改めてようこそ、大希の精神安定剤さん」

「……はい?」

「あなたがいれば我々は大助かりです。なにせ獰猛な虎もあなたの前では人懐っこい猫になるんですから。
ちなみに知ってます?昨日は実莉さんに会えるのが楽しみで眠れへんかったらしいです。乙女みたいですね」

「なにそれ乙女すぎる」



大希にとって精神安定剤と称されるほど恋しかったなんて信じられないけど、眠れなかったとか聞いたらおかしくって笑えた。


そんな繊細なタイプに見えないのに。



「さっきから余計なことしか言わへん口やな」

「乙女心を忘れない若頭も素敵ですよ」

「なんやその心のこもってないボケ。もっとおもろいこと言わんかい」

「でも実莉さんにはウケてますよ」

「はぁ〜?」



半信半疑だったけど、大希が否定しなきってことは本当らしい。


なおさらおかしくて口を押さえて笑うと、大希は眉間にしわを刻みつつあごで丞さんを指した。



「こいつ、真面目そうな顔して生粋のボケやねん。適度にツッコミ入れてやらんと永遠にボケ続けるから気ぃつけや」



主従がもはやコンビになってるけど、やっぱりこの2人は1か月前と変わってなくて安心した。


私は笑ってうなずいて、荷物とともに緊張という肩の荷を下ろした。
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