スカーレットの悪女
「あ、ネイルかわいい」


どうやらネイルに興味を示したらしい。


この時代の男性って令和と違って、ネイルに興味のない人多いけど、大希は興味津々で私の手をとって眺めている。


それだけで女としてはちょっと嬉しくて早速絆されそうだった。



「赤が似合うなあ、実莉は」



しかし油断したその瞬間、大希は手の甲に唇を寄せた。


なんなの、あんたそんなことするキャラじゃないでしょ!思わず手を引っ込め、私は大希の拘束から抜け出してソファの前に立った。



「なんなのさっきから!距離近いって」

「オールしたから頭回ってないねん」

「早く寝なさいよ!」

「ほな一緒にお昼寝しよか」

「私は荷解きがあるから無理」



大希は両手を広げて迎え入れるつもりだけど、私はさっさと背を向けた。


ひとまず丞さんに持ってきてもらったキャリーケースを開け、荷解きを進める。


中の物を全て出し終えると、目の前が影った。



「つれへんなぁ」



大希は不安を吐き出すと共に、背筋を指先でつー、となぞった。


仰け反ってものすごいスピードで距離を取り、たまたま手に持っていたヘアアイロンを片手に戦闘態勢を取る。



「欲求不満なの!?」

「安心して、今すぐ手篭めにしようなんて思ってへんから」



欲求不満なのは否定しないんかい。



「まあ、実莉が我慢できひんって泣きついてくるまでちょっかいはかけるつもりやけど」



劣情をにじませた目で不気味に微笑む大希。


とぼけたこと言ってないで早く寝ろよと思ったその時、誰かが威嚇でもするかのようにドン、と壁を強く叩く音がした。
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