スカーレットの悪女
「んんっ、んむむ!」

「実莉、何言ってるか分からんで。目ん玉落っこちそうなくらい美味しいのは伝わるけど」



ひと皿目に大ぶりなえんがわをいただいて、口に頬張ったまま大希に目配せした。


お寿司食べて染み渡るって表現はおかしいけど、旨みが口の中をほとばしって体中に浸透していく感覚だ。



「どうやお嬢ちゃん、旨いやろ」

「ううっ、毎日こんな美味しいもの食べてたら舌が肥えてしまう……!」



疲労をぶっ飛ばすおいしさにプルプル震えて大きく何度も頷きながら渋い顔をする。



「いいリアクションするやん、お嬢ちゃんおもろいなあ」


普段こんなに反応してくれる客は少ないのだろうか。


嬉しそうな大将は注文以外のネタもサービスでどんどん握ってくれるから、おかげで下っ腹が膨れてかなり苦しかった。




「うぷっ、一生分のお寿司食べた気分」



なんとか笑顔で乗り切って迎えに来た車に乗った。


大希は「吐きそうやったらすぐ言ってな」と言いながら手元でスマホを操作している。


真剣に画面を見てるから仕事関係だろう。ところが数秒後、大希は満面の笑みで画面をこっちに向けた。



「実莉、見て」

「何を?」

「リスみたいにほっぺた膨らまして食べる実莉」



スマホに映し出されたのはお寿司を頬張って目を輝かせる私。


さながらどんぐりを口いっぱいに詰め込んだリスみたいだ。



「いつ撮ったの!?」

「かわええなぁこの顔、赤星に送り付けたろ」

「絶対迷惑かけるからやめて!」



盗撮どころか丞さんに送るなんて言い出したから阻止しようとしたけど力では敵わない。

数枚写真を送った大希は満足そうにふんと鼻を鳴らす。

ところが数分後、今度はぎょっとした顔で私に画面を見せてきた。
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