スカーレットの悪女
すると、大希は私に背を向けて部屋のドアを閉めに向かった。


「あ……」


その背には、雄々しく獰猛な虎の刺青が。


私は驚嘆の声を漏らし、その背を見つめた。


そうだ、これこそが大希が“西の虎”と呼ばれる所以(ゆえん)。えもいえぬ迫力と美しさに目を奪われる。


背中から腰の辺りまで全面びっしりに掘られた刺青。鮮やかな色彩に写実的な猛虎がその背で悠然と歩みを進めていた。


かっこいい、もっと近くで見たい。



「見とれてるん?」

「本当に虎だ……」



その視線に気がついて大希がどこか誇らしげに笑う。



「荒瀬志勇も背中に狼がおるんやろ?せやから東の狼。
で、俺は背中に虎の墨があるから西の虎って呼ばれてんねん」

「いや、私志勇の背中見たことないもん」

「そうなん?」

「うん、志勇は壱華以外には見せたくないって」

「だからそんな興味津々なんや」



見えやすいようにベッドに腰かけた大希の背に近づいてじっとその背を眺める。


今にも飛び出しそうな虎の周りに鮮やかな色彩があると思ったら桜だ。虎と桜を除く空白部分は和彫り独特の黒い柄が彫られているから、まるで夜桜の中を歩く虎みたい。



「触っていい?」

「ご自由にどうぞ、減るもんやないし」



普通に生きてたらまずお目にかかれないものだから触ってみたくなった。


手を伸ばすと感触は滑らかで皮膚そのもの。皮膚の下の鍛え抜かれた背筋を感じて「ほぉぉ……」と謎の声を発した。
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