スカーレットの悪女
「たったひとりの家族なんです。
なんでもするから、お願い助けて……」



頭を下げて懇願して、血だらけの手で志勇にすがりつく。



「なんでも、か……へえ」



志勇は身の毛もよだつような笑みを浮かべ、その瞬間に交渉が成立したのだとわかった。


壱華、何してるの?やめて、私のために人生を棒に振らないで。


そう伝えたかったのに、刺された痛みと失血による目眩で、せいぜい唸る程度の声を出すがやっとだった。


最後に見た光景は、光の中を生きてきた少女を闇色に染め上げるため、そっと手を伸ばす闇の帝王の姿。


ああ、最悪の展開だ。


壱華を守るどころか、もっとも回避しなければいけない方向へ導いてしまうなんて。


守れなくて、ごめんね、壱華……。


視界がゆらめくのは、涙のせいなのか目眩のせいなのか。


それすら判別できぬまま、私は目をつぶって完全に意識を手放した。
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