スカーレットの悪女
朝はまだ冷静になり切れなかったから、大希が帰って来てから作戦を決行することにする。


毎日律儀に帰ってくるからだいたいの帰りの時間は把握できるようになった。


今日も19時ちょうどに玄関の鍵が開く音がした。



「おかえりぃ」

「ただいま、お出迎えしてくれるなんて珍しいやん」



あからさまな猫なで声で出迎えたけど、大希は疲れているようで私のわざとらしい声にはつっこまなかった。


疲れてるなら余計絡まれるのはうざったいだろう。



「大希ぃ、あのね、これが欲しいんだけど」



私はリビングのソファに腰を落ち着けた大希に近寄って隣に座った。


スマホの画面を見せ、要求したこともない超高額のバッグの写真を見せる。


疲れてる時に労わりもせず、自己中ながめつい女を演じればことで大希もドン引きするのではなかろうか。


そんなマイナス方面の期待を込めて間延びした声で話かけたけど、大希はしばらく呆然と私のわざとらしい上目遣いを見つめ、歯を見せて笑った。



「なんやねん、かわいい顔して。やっぱり俺のこと大好きやん。いくらでも買うてやる」

「ええ〜?ほんとぉ?嬉しい」

「やっと甘えてくれたか、ほんまかわええなあ実莉」



わざとらしく大げさに喜んでも珍しく私からスキンシップしたけど、大希は何の疑問も抱かない。


その時気が付いた。大希、もしかして恋に盲目タイプ?


だからこんな小学生の演劇レベルのへったくそな演技に騙されてんの?


私に対してかなり分厚めの恋愛フィルターがかかってない?


となるとこの男に嫌われる努力とか無理な話だ。そう思うと急に表情筋が作用しなくなった。
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