スカーレットの悪女
「……」

「どうしたん、ほれ、存分に甘えてええよ」



だめだ、演技すら通用しないなら私に成す術はない。笑顔はやめて冷めた目で大希と距離を取る。


メンヘラ女のジェットコースター情緒並みにコロコロ態度を変えてるけど、攻略対象がどんと構えているものだから揺さぶることができない。



「あんたに媚びる女みたいな態度を取れば、飽きてくれるかと思ったのに」

「飽きるわけないやろ、もう手遅れ。むしろ新鮮でよかった。今のキャラ定期的にやって」



地声でぼそぼそと呟くも、瞬時に説き伏せられて私は思い切り唇をへの字に曲げた。



「絶対イヤ、もう二度としない」

「えー?なんでもっかいやって、お願い」

「ちなみに本当に欲しいのはドラム式洗濯機だから!バッグなんて欲しくないから!」



大希は再演を熱望してるけど、私は無理やり話題を変換した。



「ええ~?年頃の乙女のおねだりがブランド品やなくて家電?」

「それか衣類乾燥機。あれあると家事の効率が全然違うんだよ。タオルふわふわだし臭くならないし」

「分かった、ドラム式洗濯機ね。ええやつ買うたるわ」

「え、見返りなしに?」

「あーん?その言い方やと見返り求めてもええの?何してもらおかな」

「なにその怪しいニヤケヅラ!なし、今の発言なし!」



そのニヤケた面は絶対ろくでもないことを想像している顔だ。


慌てて訂正したその時、ソファの上に置いていたスマホから着信音が流れ出した。


あれ、この着信音は壱華だ。もしかして何かあった!?私は大希のことなんてそっちのけでスマホに飛びついて通話を開始させた。
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