スカーレットの悪女
「昨日無理させたから疲れたんやろ、体痛くない?朝ごはんなんか作ろか?」



それにしても、非道の覇王とも呼ばれた男がこんな甘ったるい声で話しかけてくるなんて解釈違いにもほどがある。



「実莉のわがままやったらなんでも聞くから」



どんな顔して甘いセリフを言っているのかと気になりちらりと目を開ける。


驚いた。大希はこれで見た中で一番幸せそうな慈しみのこもった表情で微笑んでいたから。


自分以外誰にも見られたくない、と独占したくなるようなそんな笑み。



「じゃあ、ごはんはいいから一緒に寝よ、ほらぎゅってして」

「昨日からなんなん、めっちゃ甘えるやん。普段からそれくらい甘えてきてくれてもええんやで」

「大希が私のことずっと好きでいてくれるなら、考える……」

「好きに決まってるやろ、そのためにはよ籍入れたいんやけど。まあええわ、今はおやすみ」



自分から気持ちを伝えたことはないくせに、好きでいてくれなんて都合のいい話だ。



「うん……」

「俺のこと考えて不安になってる実莉見るとたまらんわ、もっと俺のことで悩んで」



意識を手放す直前、大希は愛しさと狂気を含んだ発言を放った。


まるで進んで共依存になってくれと言わんばかり。


それが本音なんだろう、きっと大希も自分が一番になりたいんだ。いつか壱華を追い抜いて、私にとっての唯一無二に。


思惑通り、私の心は徐々に侵食されている。それを知りながら離れられない。やっぱり大希は危険な男だ。
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