スカーレットの悪女
飼い主を見つけた大型犬みたいだな。でも大型犬よろしく突進してくるのは勘弁して欲しい。



「隠れさせて雅さん!」

「なんでやねん、大希さんを悲しませるなや」

「だって190cmに突撃されたら私なんてひとたまりもないって!」



両手を広げながら突進してくる大希が怖くて雅の背後に隠れたつもりが、雅も私の後ろに回ってきて背中を押した。


しまった、この男が私の味方になってくれるはずがなかった!


仕方なく歯を食いしばり顎を引いて衝突に備えようと試みる。しかし目前まで来た大希は表情を変え、老人のように顔をしわくちゃにしてそっと抱きしめてきた。



「おかえり実莉……」

「た、ただいま」



大希、オタク感増したなあ。握手会で推しに会えるって息巻いてたのに推しを目の前にしたら失速するタイプのオタクみたい。



「人生で1週間がこんなに長く感じたの初めてやわ」

「そんな大袈裟な、忙しかったんでしょ」

「あっは、実莉のそういうツンツンしたところ好き」



限界オタクに成り果てた大希。もはや冷たく接しても加点されてしまうらしい。



「雅にお土産あげたんや、俺には?」

「ないよ、手荷物増えるの嫌だったから」

「まあ実莉が無事に帰ってきたからええわ。はよ家戻ろう」



お土産すら準備してなかったけどやけにご機嫌。大希は鼻歌を歌いながら私の肩に手を回して離れに向かって歩き出した。
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