スカーレットの悪女
「実莉不足でどうにかなりそう」



家に着いて荷物をリビングに運ぶと、大希が後ろから抱きついてきた。


そのままひょいと抱き上げソファに座る。私は大希の膝の上に座る形になった。



「あー……いい匂い」



首筋に鼻を近づけて深呼吸をする大希。息が首にかかってくすぐったい。


反射的に身をよじると強く抱きしめられた。



「逃げんで、今充電中なんやから」

「充電溜まったらまた東京行っても大丈夫?」

「なんでそんな意地悪言うん。匂い嗅ぐだけで充填できるわけないやろ」

「じゃあどうしたらいいの?」

「は?分かってるくせにいけずやな」



振り返って顔を見ると、大希は口の端を釣り上げ歯を見せて笑う。


尖った犬歯が見えて本能的に畏れを感じる。その一方で官能的な瞳に捉えられて動けない。


その笑みを見る度に、私はこの男の獲物なのだとつくづく感じる。


結局飼われているのは私の方だ。理解した上で逃げられないのだからきっと一生覇王に翻弄されて生きていくのだろう。


体を反転させて向かい合うように膝の上に跨る。随分素直な私に大希は笑みを深め、ゆっくりと唇を重ねた。
< 710 / 807 >

この作品をシェア

pagetop