スカーレットの悪女
「ごめんねえいきなり顔掴んで。あんまりに愛らしい子やったからぬいぐるみ感覚で触ってしもうたわ」

「はは、お気に召されたようで良かったです。私は相川実莉と言います、はじめまして」

「あら、まだ相川なん?大希が籍入れるって奮起してたからもう望月になったかと」



苦笑い気味に挨拶をして頭を下げる。ただし彼女の行動に驚いて苦笑いになったわけでなく、極道の妻に会うのにオフショルを着てなくてよかったと安堵と焦りが入り混じった顔である。



強行突破してオフショルを着なくてよかった。露出多い上にキスマが付いてたら下品すぎる。



「いつ籍入れるん?昂大と私はいつでもええよ」



しずかさんは初対面だというのに結婚の話を持ち出した。プライベートな話題にグイグイ来る感じ、この人も生粋の関西人だな。



「もう少し待って欲しいです。せめて壱華……姉の子が生まれるまでは」

「そういやお姉ちゃん想いなんやって?大希が言ってたわ」



姉のことなんて放っておけなんて言われるかと身構えていたけど彼女は案外あっさりしていた。


あれ、望月の未来を案じて結婚を急かすために帰国したんじゃなくて、単純に私に会いに来ただけ?



「で、大希はもうおらんの?相変わらずヤクザのくせして朝早いんやから。しゃーないまたちょいちょい来るわあ、バイビー実莉ちゃん」



辺りを見回したしずかさんは家に上がったばかりだけど颯爽と踵を返し、年代を感じさせるバブリーな挨拶を残して去っていった。
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