スカーレットの悪女
「しゃーないやろここのステーキ食べたがってたの実莉ちゃんやで」

「明日でええやんか、せめて夜」

「大阪に戻って楽しみなことないと帰る気にならんやろ」

「俺に会える時点で楽しみあるやん」

「調子乗るな青二才、実莉ちゃんはあんたに色目使ってきた女とは違うんやで」



百戦錬磨の大希も、雫佳さんの前では青二才呼ばわりされている。


大希は苦い顔をしたけど私は一方で笑顔だった。


血の繋がりのない母娘だけど、事情を知らなければまるっきり親子だ。猫かぶりが得意な大希も自然体だし、雫佳さんにはかなり気を許しているらしい。



「実莉、何わろてん」

「んーん、いい家族だなって」

「息子が虐げられる可哀想な家庭やと思いますけど」

「まだいじけてんの?帰ったら好きにさせてあげるからもうちょっと我慢して」

「実莉がそう言うならしゃーなし大人しゅうしとくわ」



着席しても口を尖らせてた大希。しかし上目遣いで可愛こぶると効果てきめんだった。


こんなわざとらしい仕草で効くなんて相当私不足だな。家に帰ってからが怖い。



「客観的に見てええ家庭になったのは再婚してからやろなあ。それまでは西雲の中でも立場が危うかったから」



私たちが会話している間にオーダーを済ませたお父さんはにこやかな笑顔で会話に入ってきた。


笑みを浮かべていてもやり切れない哀しさを含んでいる。


最初の妻を亡くしてから運命の荒波に翻弄され続けた悲劇の人物。幼い大希を守りながら茨の道を裸足で踏みしめ、今の地位まで上り詰めた彼の心境を思うと胸が苦しい。


数多の裏切りに遭った彼は、何を心の支えに生きてきたんだろう。
< 721 / 821 >

この作品をシェア

pagetop