スカーレットの悪女
大阪に戻った2週間後、私は再び東京に戻るため家を出る準備を整えた。今回の帰省はただの里帰りではない。


壱華の命を守るため、決死の覚悟で荒瀬に参上するのだ。


原作では7月、ある特定の場所で壱華は命の危機に晒される。未来を知っている私は絶対にそれを阻止しなければならない。


戦争に赴くような気分でキャリーケースを片手に勇ましく外に出る。


ところが正面玄関付近で大希と出くわしてしまった。



「実莉~東京戻る前に会えてよかった。今から堅苦しいおっさんばっかりの会合があるからその前に実莉に癒やしてもらおと思って」

「なに、私急いでるんだけど」

「まーたツンツンしてるやん。そんな怖い顔して戦場にでも行く気なん?壱華に会いに行くだけやろ」



陽気な大希に会ってしまうと出鼻を挫かれた気分というか、気が抜けて決意が弱くなってしまう気がする。



「実莉、頑張れるように俺にキスして」



しかもなんでこのタイミングで甘えて来るの?周りに人がいるからそういうの遠慮してほしいんだけど。


大希は良くても周りの人が気を使うんだよね。



「届かないんだけど」

「あっは、ほんまチビやな」

「何、バカにしてる?」



だけど私が動かない限りは私の送り迎えをしてくれる大希の部下も動かないだろう。


私はため息をつき、大希のネクタイを掴んで引っ張り、近づいた顔にお望み通りキスをした。
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