スカーレットの悪女
「こうしたら届くけど?」

「あかん、実莉……それはあかんて」

「何悶えてんのおっさん、今日会合なんでしょ?しっかりして」

「はよ俺と結婚して……」



言った通りにしてやったくせに、大希は鼻の下を伸ばしてニヤついている。


なに本気で照れてんの?そう思って顔を覗き込むと、大希は表情を変えていつも通り笑った。



「もう少し肩の力抜いたらええんちゃう?今回の帰省はただ壱華に逢いに行くだけやないんやろ。知らんけど」

「出た、“知らんけど”。なんで関西の人って語尾にそれ付けるの?」



キスなんて慣れきってるはずなのに変な反応するなと思ったらどうやら私の異変に気がついて探りを入れていたようだ。


私は悟られたことを誤魔化すように話の本筋から離れた部分に揚げ足を取った。



「実莉もあと3か月もしたら使うようになるって。知らんけどって薄情な言葉に見えて便利やで」



心配に対しての生意気な態度を取ったのに大希はいつも通り「気ぃつけて行きや」と私の頭を撫でてそれ以上は引き止めないつもりらしい。


なんか、子どもっぽい対応しちゃったな。さすがに反省して意地を張るのはやめにした。



「ありがと、行ってくるね」



真摯に受け止めて笑って別れを告げ、大希は私の背を押すように笑って見送ってくれた。
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