スカーレットの悪女
「これはどういうことだ」



荒瀬の上層部を10人ほど引き連れて現場に向かうと顔面蒼白の女が2人、蛇に睨まれたカエルのように実莉に睨まれて動かなくなっていた。



「暗転した間に突然この場に連れてこられて……私も訳が分からなくってぇ」



実莉は俺に気がつくと渾身の困り顔で被害者ヅラをする。いや被害者であるのは間違いないが、わざとらしい演技に笑ってしまいそうになった。


思わず目をそらすとドア付近には女どもの護衛と思われる男がいた。


攫った本人だと言うのに焦燥のない表情を見るに、実莉はおそらくこの男たちを事前に買収していたのだろうと推測した。



「おい、お前たち実莉を攫ったのか?」



問いかけると一瞬目が合い驚いたように肩を動かしたが、その後再び仏頂面で前に向き直す。



「はい、相川実莉を攫うように命じられました」

「違う、私たちは壱華を……!」



一方の男がそう答えると、2人のうち主犯と思われる女が反応して壱華に危害を加えるつもりだったと取れる発言をした。


慌てて口を塞いだがもう遅い。



「壱華に何をするって?」



誘導と気づかず掌の上で転がされていることに気づかないとはとんだ阿呆だな。


どのみちお前たちの負けだ。女どもはどう足掻いても救いがないことにようやく気が付き、ひとりは膝から崩れ落ち、もう1人は失神するように倒れ込んだ。


一方で実莉は何食わぬ顔で自分の爪に視線を落としている。


最初の演技にはこらえたが、その仕草にはさすがに笑みがこぼれた。


相変わらず狡猾でふてぶてしい女だ。


全部お前の計画だと言うのに素知らぬふりをして何を考えているのだか。
< 740 / 807 >

この作品をシェア

pagetop