スカーレットの悪女
「待ってくれ!」


すると、大きな足音と共に何かが部屋に流れ込んできた。やつは荒瀬幹部の水尾組の組長で事件を引き起こした女の父親だった。


血相を変えて部屋の中になだれ込むと、娘の前に膝をつき、頭を床につけ土下座した。



「度重なるご無礼を許してください。だがお願いだ。娘だけは、この娘の命だけは助けてやってください……!」



男は矢継ぎ早に口を開くと、土下座の体勢を維持したまま再び声を発した。



「ただで許してくれとせがむ訳ではない!望むなら手でも足でもくれてやる!……頼む、私の娘なんだ!」



お前の手足にそんな価値があると思っているのか?驕っているな、もはやお前の命にすら価値はないというのに。



「その女は、触れてはならない覇王の所有物を攫った。計画的に。そして故意に。あまつさえ俺の妻を傷つけたようとしたのだから……終わりだ、お前らは」

「ま、待ってくれ……!彼女を傷つけたわけじゃない。こちらが西雲に言わなければ何も問題ないじゃないか」

「古株のくせに分かってねえな。実害がなければ許すほど荒瀬は甘くない。計画を実行した時点で処罰の対象なんだよ」


確かに男の言う通りではあるがこちらにとっては絶好のチャンスだ。事件を起こした女のうち、ひとりは流進会の会長の娘。


流進会は最近、独自に外国との薬の取引をしていたことが発覚したため、破門する予定の組だった。


難癖をつけて破門させるため、この機会を逃すわけにはいかない。

俺はその場で処分を言い渡し、流進は問答無用で破門、水尾は娘と縁を切らせた上で荒瀬幹部から外れて下っ端からやり直すことを命じた。

実莉は表情ひとつ動かさず、まるでこの結末を知っていたかのように淡々と状況を見守っていた。
< 741 / 807 >

この作品をシェア

pagetop