スカーレットの悪女
絶望にひれ伏す当事者たちが連れていかれると、野次馬と化した重役どもは会場に戻って行った。

現場には理叶と光冴、そして実莉が残された。



「実莉」

「あれ、マタタビじゃないんだ」



声をかけると、とぼけた顔をして俺を見上げる実莉。



「その生意気さは通常運転だな」

「あいたた!暴力反対!」



片手でその顔を掴んで頬を挟むように変顔をさせる。


手加減はしてるから痛くないくせに痛がって俺の束縛から抜け出した。



「なぜ俺に言わなかった」



それが俺から逃げようとしているように思えて、語尾を強めて問いかけた。



「壱華に危険が迫っていると知っていながら、なぜ黙っていた」

「だって、知ったら志勇は壱華を連れてこなかったでしょ。脅威から遠ざけるだけじゃ意味がない」



実莉はいつだってそうだ。どれほど圧をかけても狼狽えることはない。


その冷静さ、今思えば望月とよく似ている。



「あの女たちが悪巧みを実行してなきゃ、流進を吊るし上げ追放することができなくなる」



飄々とした態度の裏で冷静沈着に計画を練り、それを誰にも悟らせない。


味方にしては頼もしく、敵に回せば恐ろしい人間だ。
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