スカーレットの悪女
「悲しいわあ」



あの日から実莉が俺に好きと言ってくれへん。


数日経った夜、ほろ酔い気分で赤星に話しかける。


今日は接待という名の無礼講で、天音の若頭である雅と楽しく飲んで過ごした。


赤星と一緒に本家に帰って来たから、このまま解散するのがなんかさみしくて語りかける。


けど赤星は俺の俺のつぶやきを聞こえなかったフリをして先を歩く。


絶対聞こえとるやろ。はー、いけ好かん。



「な、赤星」



後ろから肩を組んだらさすがの赤星も観念して、一瞬目を合わせた後に大きくため息をついた。



「どうせろくなことじゃないでしょうから聞きません」

「聞けや、若頭命令」

「なんですか、“ラジオネーム恋するウサギちゃん”の大希さん」



なんとなく色恋沙汰なんは予想ついてるみたいやけど、今なんつった?


なんでフッてくるん。相談聞いてほしかったらオチ考えろってか?この俺にノリツッコミしろってか?


こいつほんまに俺の部下か?まあ素直すぎるヤツは面白みがないけど、こいつは度を越してるやろ。


まあええけど。俺がツッコミせん限り永遠にボケ続けるやろうし。赤星はそういう男や。


なんやったっけ、ラジオネーム恋するうさぎちゃん?そういや邦楽にそんな歌詞あったな。



「せやねん、なぜ人を好きになるとこんなにも苦しいの……ってポルノちゃうわ!」

「うーん、ツッコミがいまいち。50点です」



模範解答みたいなノリツッコミをしたのに点数低すぎやろ。つーか赤星、最近生意気が過ぎるんちゃうか?あかんイライラしてきた。



「お前、俺で遊ぶのもええ加減にせえよ」



不快感が鋭利な言葉となって赤星に降り注ぐ。割と本気で怒ったつもりやけど、赤星は相変わらず朴念仁を貫く。


くそ、メンタルが屈強すぎて敵わん。


代わりにたまたま廊下ですれ違った若いのが「ひぇぇ」と震え上がってなんもない廊下でつまづいて転んだ。
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