スカーレットの悪女
「赤星ぃ!お前笑うな!」



赤星こいつ、さっき俺がブチギレたの忘れたんか?


何を悠長にわろてんねん。右腕なら笑ってないで助け舟出せや。


けどまあ、実莉の秘密を教えてくれたからなあ。しゃーなし全部チャラにしたるわ。



「ふふ、いやほんま、実莉さんが来てから退屈しませんわ。情けない大希がこんなおもろいなんて」

「好きな女に対してプライドなんて関係ないわ」

「必死ですね、やっぱり怖いんですか」



まだ俺のこといじるつもりならもういっぺんブチギレてやろかと思ったけど、不意に怖いのかと問いかけられて感情に身を任せるのはやめた。



「あなたは幹菜……いえ、“望月姉妹”に裏切られる人生を送ってきたのですから」



消し去りたい幼少期の思い出を語る赤星の眼差しは哀れみではなく警告を示していた。


その通り苦労してきた人生やけど、悲観したことは一度もないねん。


なんでもそうやろ?つらい苦しいじゃ立ち止まってばかりやから、喜劇に変えて意地でも進む。俺はそうやって道を切り開いてきた。



「心配してるん?珍しいやん。けど実莉はちゃうよ、それは断言できる」

「私もそう思います。実莉さんは身勝手な人ではありませんから。そもそも行動源が自分ではなく家族だった人ですからね。しかも血の繋がらない義理の姉を……まったく愛情深い人です」



赤星は気を抜くなって忠告でもするんかと思ったら穏やかな笑みを浮かべて、ベッドの上で呼吸とともかすかに膨らんではしぼむ布団を見つめている。


毒気のない顔で笑ってるの珍しいな。赤星はザルやけど、珍しくほろ酔い気分と見た。



「今夜はえらい饒舌やん」

「おや気づかんかったんです?これでも酔ってるんですよ」

「ほんまに?飲み足りないんとちゃう?」

「それはあなたの方でしょう、大希」



やっぱり酔ってるらしい。こういう時の赤星からはおもろい話がばんばん聞けそうやからサシで飲み直したい気分や。


誘うと赤星はいつの通りの仏頂面に戻ったけど、足をリビングの方に向ける。


そっから語り合って、解散した頃には朝日が昇っていた。
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