スカーレットの悪女
「俺も壱華の子どもが生まれるまで籍入れずにいようと思ったけど限界なんよ。最悪壱華に危害が及ぶで」

「……籍を入れなければ私に対する不満が蔓延して、世襲君主制派がまた吠えだすって?」



ショックを受けても頭のキレは相変わらず。


こいつはいつでもそう。わずかな会話から真理にたどり着き察知する能力が高い。



「筆頭があの天音組の組長なんでしょ。もう力はなくても、ヘイトが集まれば彼を中心に人が集まるかもしれないってことね」



そこまで分かっとるくせに籍を入れん理由がこいつにはある。大希さんは周知の上であえてあのいとこを呼び出すことで危機感を煽ったんやろうな。


俺にとっての大希さんみたいに、実莉には姉である壱華が生きがいであって人生の道標でもある。


極道の妻となれば交流は困難になる。そこに難色を示してるんやろ。



「でも、籍を入れたら今みたいに頻繁に東京に帰ることはできなくなるね」



やはり引っかかってたんはそこか。実莉は遠い目をして感傷的に笑う。いつもの実莉が大輪の花なら、今の実莉は水面をたゆたうひとひらの花びらのように儚げで、目を離せば押し流されてしまいそうに弱々しかった。


めっちゃシリアスな雰囲気醸し出しとるけど、俺はなんや色気出せるやん、とこの場にそぐわないことを思って慌てて大希さんの顔色を伺った。


案の定野生の勘が鋭い大希さんは俺を見てなぜかにこにこしてはる。


あかんバレた。けど勘弁してや、女としても魅力があるんやと関心しただけで惚れたとかそういうわけやないねん。



「自分の立場を理解しないといけないことも分かってる。ちょっとお花摘むがてら冷静になってくるね」



どうにか説明しようと思ったその時、実莉はわざと明るく声を張って応接間から出ていった。


大希さんは追いかけることなく泰然自若とその後姿を見つめていた。
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