スカーレットの悪女

大希の生い立ち

「実莉さん、桃をもろたんやけど欲しい?」

「欲しい!桃のタルトにしたらおいしそう」

「ほなあげる。タルトできたら俺にもちょうだい、また来るから」

「いいよ、楽しみにしといて」



最近、雅の心境に大きな変化があったらしい。


名前も呼んでくれなかったくせに敬称つけて名前呼んでくれるし、顔を合わせば探りを入れてくるような嫌味っぽい言動が多かったけどそれが大幅に減った。


今日だって化粧箱に入った高級そうな桃をわざわざ自分で持ってきてくれた。そうか、7月だから桃が出回る季節だもんね。しかもタルト作ったら家に食べに来るらしい。


もともと食べるのは好きみたいだからよく一緒ご飯を食べてたりしたけど、あんな物腰柔らかい感じじゃなかった。


仲良くなれたってことでいいのかな。出会って5ヶ月でようやく認めてくれたらしい。


ぶっちゃけ今まで出会った男の人の中で一番手こずったかも。難関ミッションをクリアした感覚だ。いい気分でおやつ作りに専念できそう。


ということは、残る問題は結婚に関してだけか。



「ただいま実莉」



もらった桃を取り出してひとつ剥いてみようかなと見つめていたところ、大希がリビングに入ってきた。


挨拶がなんかテンション低いな。それのこの匂い、線香の香りだ。


振り返ると大希は暑いのにワイシャツに黒いネクタイをしてスラックスを履いていた。


まるで喪服の装いだった。
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