スカーレットの悪女
「よう男と飲み歩いて家にはほとんどおらんし、家におっても癇癪持ちやから育児なんてできるはずがなくて、まあひどい母親やったな」

「……虐待?」

「虐待ってほどひどいもんやないけど、たまにしばかれるくらい。機嫌の善し悪しを見極めんと叩かれるから、自然と人の顔色伺うの得意になった」



話を聞く限り明らかなネグレクトだと思うけど、大希は虐待ではないと主張する。


そう思い込まないとやっていけないほど精神が不安定だったのだろう。


いくら今の大希の精神が頑強でも、自分の心を守る術を知らない幼子には、事実を認めないことが最善だったのだ。



「まあ、可哀想な女なんよ。遊び盛りの18で結婚させられて俺を生んで、方や双子の姉の幹奈は高校卒業して大学行って毎日楽しそうで。そりゃ自暴自棄にもなるわな」



憎しみを抱いていても可哀想という感情を向けることができるのだから、大希はやっぱり器の大きい人間だと思う。


憎しみに支配されていたら相手の感情を考える余裕はないから。



「でも、もともと気性の荒い性格だったんでしょ?なんで姉妹でも穏やかな方の幹奈じゃなくて妹だったの?」

「幹奈は子宮に病気が見つかって、子どもを産めん可能性があるから妹の杏奈に白羽の矢が立ったんよ」



でも、確かに話を聞くと同情の余地がある。


好きでもない男と結婚して子どもを生むことは苦痛だろう。


半身のように育った双子の姉が責務を逃れ、自由に人生を楽しんでいるのならなおさら。
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