スカーレットの悪女
「けど幹奈はなんもせんかったわけやなくて、家におる時はほぼ俺の世話してくれたんよ。“自分には子どもはできひんかもしれんから、大希のこといっぱい甘やかしたる”って。子どもの時の楽しい記憶にはいつも幹奈が隣におったわ」

「もしかして初恋だった?」

「そうかもしれへん」



母親の愛に恵まれなかったのに、大希がここまで愛情深いのは母親以外に支えてくれる人間がいたから。


大希が幹奈を慕う理由が分かった。彼女は大希にとっての母親代わりだったのだ。



「話が脱線したわ。なんやったっけ」



幹奈の話をする大希はいつだって楽しそう。その話を聞くのは好きだ。


だけど今はその時ではないようで、大希は口角を落として表情を改めた。



「とりあえずそんな感じに楽しかった記憶は7歳まで。
母親の首吊り死体を見つけたその時までは、まだ恵まれとったと今は思う」

「えっ……」



つらつらと日記を読み上げるように、まるで他人事のように並べられた語彙の意味を吸収して血の気が引いた。


大希の人生が平穏でないことは知っていた。しかし想像以上の苛烈で残酷な道のりであることを、私はこの時初めて理解した。


語り口とは裏腹に開かれた絶望の扉があまりにも重い。


混乱の最中、大希は私を落ち着かせるようにやるせない笑みを浮かべた。
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