スカーレットの悪女

ハッピーエンドのその先で

8月上旬、その日は初めて天音組の本部に足を踏み入れた。


元々あった天音の土地は売りに出されたから、再加入して以来大阪市内の5階建てのビルを本拠地としているらしい。


雅も元いた場所は嫌な思い出が多いから、こっちの方がいいと言っている。


本拠地に来たとは言っても、私は地下の駐車場で大希を待ってるだけだけ。


今日はふたりで出かける予定だったけど、途中で天音に野暮用があるため、夕暮れ時にここに来た。


打ちっぱなしのコンクリートの立体駐車場には車が数台止まっており、うち一台には誰かを待っているのだろうか。


エンジンがかかった状態で運転手だけ車内にいた。


暑いため私もエンジンをかけたまま運転手と待っていると突然車のドアが開いた。



「久しぶり、ちょいとお話しよか?」



女の声がしてその方向に首を動かすと、黒髪の女の姿が確認できた。


整ってるけど性格悪そうな人相には見覚えがある。この女、雅のいとこだ。


嫌な予感がする、カギを開けていたのは迂闊だった。


ドアを閉めようとすると先に腕を伸ばされて髪を掴まれ、引きちぎらんばかりの勢いで引っ張ってきたからたまらず引っ張られる方向に足を進ませ、結果的に私は車から引きずり出された。


とっさに運転手に助けを求めようとしたけど、彼は前を向いたまま微動だにしない。


……まさか天音に金を握らされている?最悪の方向に考えたけど、彼にメリットはないはず。


だって本家の人間は大希を慕っている一方、嫌という程彼の恐ろしい部分を知っているのだから。


では彼の行動の原理は──
< 783 / 821 >

この作品をシェア

pagetop