スカーレットの悪女
「何よそ見してんねん!早くこっち来いや」



しかし、興奮した金切り声に分析は途絶える。


同時に強烈な平手打ちを食らい、打ちどころが悪くて口の中が切れた。歯が当たって出血した程度大したことないけどじわじわと広がっていく鉄臭さに不快感を覚える。


ただ、たったひとりで襲撃を仕掛けてきた彼女は美花のように凶器は持っていないようで安心した。



「気味悪いわあんた、なんでこんな時ですら冷静なん。まあええわ、今からもっと酷い目にあってもらうから」



残念ながらこれ以上の修羅場をくぐり抜けてきたわけだから、そこまで動揺しないのだ。彼女より恐ろしい連中を私は知っている。


そして彼女の目論見が実現しないだろうということも。


彼女はどうやら隣の車に私を乗り込ませようとしているらしい。私の髪を掴んだまま、後部座席の車のドアを開けようとする。


しかし鍵が開かない。エンジンがかかっているから中に人がいる様子はありながら、彼女は拒まれているようだった。



「は?どういうこと?はよ開けて」



何かの間違いだろうとガチャガチャと取っ手を引くも、一向にカギを開ける気配がない。


彼女は焦り、私の勘は確信に変わった。


これは憎悪に燃える女に与えられた一発逆転のステージではない。私に課せられた試練なのだと。
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