スカーレットの悪女
噛み付いたものだからてっきり反撃が来ると構えていたけど女は起き上がった後、化け物でも見るかのような目つきで私を睨んでいた。


だけど手は震えてて怖気付いている。


ほらね、大希への想いも、私への恨みも中途半端だからそうなるんだよ。



「なんか物音聞こえるなあ。あれ、実莉どこ行ったん」



静かになると聞こえてきたのは数人の男の足音と大希の声。



「た、大希さん!助けて」



女は愚かにも噛まれた肩を押さえながら覇王の前に躍り出た。


私はゆっくりと彼女を追い、女を挟んで大希と対面した。大希は何を考えているか分からない空虚な目で彼女に視線を落とす。


よく私に向けられていた目だ。私に向けられていないのに背筋が冷たくなるような心地だった。


両脇には丞さんと雅が控えており、我関せずと言った表情で前だけを見つめていた。



「ちょっかいかけただけやのにこの女が噛み付いてきて!見てこんなに痕が……」



わざと膝から崩れ落ちて泣き出し、大希の前にひざまずいた。


すると大希は彼女に近づき、撫でるようにその頭に手を置いたかと思うと、髪を掴んで無理やり持ち上げた。



「いっ、痛いなんで!?」

「実莉のこと攫う気やったんやろ、失敗して残念やったなあ」



穏やかで優しい丁寧な口調。しかしその手つきは一切の慈悲が感じられず乱暴に女の長い髪を掴み上げている。


純粋なる怒りの感情に支配された覇王を見るのはこれが初めてのこと。


恐ろしいことに変わりないのに、激情の原因が私であることに悦びを覚える私は狂っているのだろうか。


どちらにせよ大希の要望通り、かなり堕ちてしまっているのだとこの時初めて実感した。
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