スカーレットの悪女
「自分、なんのつもりや」



私を床にそっと下ろし、タイミングを図ったように女に詰め寄る大希。


少し声量を上げるだけで、コンクリートで囲まれた立体駐車場内を反響してその場にいる全員に言い聞かせているような錯覚に陥る。


聞き取りやすいよく通る声には人の注意を引き付ける力がある。


そのベースに怒りの感情が乗せられていればなおさらだ。


女の身内と思われる男もそれを感じ取ったようで、汗をかいて焦燥していても口はつぐんだ。



「荒瀬との関係にヒビが入ったらどうやって落とし前つけるつもりかって聞いてんねん」

「だって、その女は……ただの人質だって言ってはったやないですか!」



それでも空気の読めない女は最後まで喚く。


向かいにいた雅は頭を抱えて盛大にため息をついたのが見えた。


すると大希は狙ったようにあえて無邪気な笑みを零し、再び注目を集める。



「人質はただの口実、実莉は俺の婚約者。けど、申し分ない人材やから荒瀬も手放してくれんかった。せやから人質の名目で連れ去るしかなかってん」



相手のペースに合わせることなく徹底的に独壇場を貫く。


対象を支配する方法は他にもあるが、覇王の獰猛さを見せつけるためにあえてそうしているようだ。


結果的に周囲の人間は押し黙り、彼の次の言葉を固唾をのんで見守っている。


平気な顔をしているのは丞さんと雅、それから私しかいなかった。
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