スカーレットの悪女
女は天音の組員に引き渡され、車に乗せられて駐車場から去っていった。


一件落着といきたいところだけど、ここにはもう一人ゲストが控えている。



「さて古狸、お前もここでお縄にかかってお役御免や」



それは現在の西雲の癌。天音組組長の処罰についてだ。


彼の周りにいた側近と見られる数人の男はいつの間にかこちら側にいて、今は雅の後ろに控えていた。


持っていた権力がすべて雅に移行しているのだ。


気取られることなく短期間で天音の組員を説き伏せた雅の手腕も称賛に値する。


大希の周りには敵に回すと恐ろしい男たちばかりだ。



「赤星、手錠の用意」

「一個しか持ってないんです」

「なんでやねん2つ用意しとけや」

「あれはモノボケ用なんで」

「真剣な場で俺のツッコミの腕を試すな」



恐怖の対象に間違いないのに、こんな所でふざける様子はコントにしか見えない。


こういうところは荒瀬と違うんだよね。


隙あらばお笑い路線に持ってくのって地域性の問題?



「……なんでですか」



空気が和んでしまったから、黙っていた組長は口を開いた。



「何が?」

「これを裏切りとして裁くのはいささかやり過ぎとちゃいます?まるで追い出す口実みたいな……」

「お前おもんないねん。古い因習に囚われすぎ。そんな頭の硬いやつ西雲にいらんわ」



懸命な訴えかけも、大希は冷え切った表情で一刀両断。


一切のぬくもりのない発言に見限られたことを悟った組長は、唖然としつつ静かに膝から崩れ落ちた。
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