スカーレットの悪女
「罪悪感?平気な顔で志勇を撃った男が?」

「彼はターゲットであって特別な存在ではありませんから」



下から覗き込むと丞さんは微笑んだ。優しい眼差しだった。


表情が乏しい彼に笑いかけられるとなぜか嬉しくなる。


それに、私のことを面と向かって特別な存在だと認めてくれた。



「それなのに作戦に私を使うなんてひどくない?」

「私は信じていたんです。どんな困難も乗り越えてきた貴女ですから」



淡々とゆるやかな口調で再び微笑を浮かべる丞さん。


いつもと変わらない口調なのに、ゆっくりに感じるのは今までの彼がやけに早口で饒舌だったからだ。


なるほど、多少の焦りと罪悪感を抱えていたらしい。



「申しわけございませんでした。もう二度とこのようなことは致しません」



深々と頭を下げた彼のつむじを見つめる。冷静になると、私はこの正式な謝罪を受け入れなければならないと思った。


わずかな綻びが崩壊に繋がることを彼らは身をもって経験している。


辛酸を舐めるような苦しい思いをしてきた3人だったからこそ、危険因子を一刻も早く排除したかったのだ。


薄氷の上の平和でも、ひび割れを避けて歩けば転落しない。それは平和であることに間違いない。


私を襲わせてつるし上げるという案は比較的安全な案だったんだろう。
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