スカーレットの悪女
「なに、ここ……」



恐る恐る私が足を踏み入れると大希は笑った。爽やかな笑みだった。



「人生で一回、ベッタベタなプロポーズしてみたかってん」



こういう時キザな態度を取らず飾らないのが実に大希らしい。プロポーズだと宣言されても自然体でいられる。



「よく当日に予約取れたね」

「せやろ?ド平日やし仏滅で、しかも何やってもうまくいかん不成就日っていう縁起の悪い日も重なったから空いてたらしいで」



だけどロマンチックな会場だから柄になく緊張してしまって、水を差すような発言をしてしまった。


だけど大希は変わらず笑っている。私が近づいてもずっとそうだった。



「あと、今日やったら絶対忘れられん日になるやろうなって。いろんな意味で。ていうか実莉は気にせんやろそういうの」

「まあね、逆境で数々の成果を上げてきた女だから」



こんな時でも私たちはよく喋る。


きっと緊張して上手く言葉が出なかったり、感動して涙ぐむのが正解なんだろうけど、談笑するのが私たちらしい。



「実莉、結婚しよ。実莉を守るためにはそれが1番やから」
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