保健室登校
私は今日も保健室に登校する。
立花先生は職員の朝礼があるので、挨拶もそこそこに職員室へ向かった。
私は保健室の窓を開けて、昨日のことを思い出していた。

……五十嵐くん、あのあと大丈夫だったかな。

「――おーい、星野さん」

急に名前を呼ばれ、びっくりして後ろを振り返ると五十嵐くんがいた。

「お、おはようございます。どうしました?」

朝の陽に照らされて、五十嵐くんの茶色っぽい髪がキラキラと輝く。
思わず、見惚れてしまいそうになる。

「これ、あげる」

彼が私に差し出した手には、ビンに入った金平糖が乗っていた。
リボンでラッピングをされていて、なかにはピンクとグリーンの金平糖が詰まっている。
まるで桜が咲いている風景を、そのままビンのなかに閉じ込めたようだった。

「え、そんな……」

戸惑っていると、五十嵐くんはもう一度手を差し出す。

「昨日のお礼だから、気にしないで受け取ってよ」

見た目は少し近寄りがたい感じだけど、手当てのお礼をくれるなんて、真面目な人なのかもしれない。お礼を突き返すのも……失礼だよね。

「――ありがとうございます」

受け取ると、彼の手には昨日の包帯がまだ巻かれていた。

「包帯、そのままですか?」

「昨日から替えてないけど」

「ついでだから、取り替えますね」

昨日のように五十嵐くんを座らせ、傷口を確認する。傷はキレイに塞がっていたので、もう絆創膏で保護するだけで良さそうだ。

「――良かった。絆創膏巻いておきますね」

五十嵐くんの指に絆創膏を巻く。しばらく彼は、その指を見つめていた。

「……あんがとな」

五十嵐くん、顔が紅いような……。熱とかないよね?

私の心配をよそに、彼は立ち上がると保健室から出ていった。


五十嵐くんと入れ違いになるように、立花先生が保健室に戻ってくる。

「五十嵐くん、来てたの?」

「はい、すごく律儀な人みたいで、お礼をくれました」

「あら、なんかそういうのいいわね」

先生はまるで自分のことのように嬉しそうに笑う。

「五十嵐くん、二年生になってから転校してきたせいかなぁ。あんまり友達と一緒にいるの見ないのよね。ふたりが仲良くなってくれるのなら、先生嬉しいわ」

……それは見た目で近寄りがたいせいもあるかもしれないと思った。

「と、もう授業始まるわね。星野さん、このプリント担任の先生から預かってきてるから」

「はい、ありがとうございます」

プリントを手に取り、私は勉強用のスペースに移動する。

五十嵐くんからもらった金平糖を、大切に鞄の奥にしまう。
なんだか、食べるのがもったいない気がする……。
この金平糖は、いったいどんな味がするのだろう。


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