保健室登校
朝の時間、昼休み、放課後……授業中に来たときはさすがに立花先生に注意されていた。
ふらっとあらわれては、五十嵐くんはとりとめのない話をしてくれるのだ。
今日も、昼休みに彼はきていた。保健室にあった丸イスに座って、机を挟んで会話をしている。
「五十嵐くん……はヤンキーなの?」
「違うよ。目つき悪いから、なんでかそう見られるだけ。髪の毛も地毛なのに、勝手に勘違いされて困ってる」
「そうなんだ……ごめん、正直私も最初、ヤンキーの人だと思っちゃってた。怪我も、ケンカでもしたのかなってちょっと思ってた」
「星野さん、ひどいなー。あれ、美術の彫刻刀のせいだよ。俺、真面目だから」
彼から真面目という言葉が出たので、ついぷっと吹き出してしまった。
そんな私を見て、五十嵐くんも笑う。
「――やっと笑ってくれた」
「……え?」
「星野さん、全然笑わないなって思ってたから。笑顔見れて、超嬉しい」
その言葉に、私の顔に熱が集まっていく。なんで、そんなこと思ってくれるんだろう。
最初に見た彼の印象とは違う。柔らかな陽だまりのような笑顔が、とても眩しかった。
なんで、私と話してくれるの? そんな質問が喉から出そうで、でも出したらいけない気もして、まごついてしまう。
「あの――」話し始めた瞬間、保健室に生徒が入ってきた。
それは、見慣れた顔。同じクラスの、出口さんと浜田さんだった。
「あれ、先生いないの? 絆創膏もらおうと思ったのに……」
ふたりは保健室のなかを見渡すと、すぐに私に気づいた。
「ああ、星野さんだ。先生いないの?」
いやな汗が背中を伝う。思い出したくもないことが、頭のなかでぐるぐると回りだす。
「い……いません……」
「そう。勝手にもらっていこ」
ふたりはジロジロと私と五十嵐くんを交互に見比べる。
そして絆創膏をいくつか取り、保健室から出ていく。
「アユは学校来れなくなったのに、保健室でいい気なもんだね」
「ほんと、いいよねー」
出ていくときに、ふたりはぼそっと呟く。
いや、わざと聞こえるように話したのかもしれない。
どちらにせよ、私の心に爪を立て、えぐるような言葉だった。
「なに、あの人たち?」
五十嵐くんの質問に答えるより先に、私の目からは涙が零れてしまう。
ぽたり、と机に涙が落ちていく。
「――星野さん、さっきのやつらに変なこと言われた?」
言葉が出てこない。頭を横に振るが、色々な想いが混ざってどう伝えたらいいのかわからなかった。涙が、止めどなく溢れてくる。
「――俺にできることがあったら、言って」
五十嵐くんはそう言うと、白い衝立で私達を隠した。
そして私の頭を、自分の胸に寄せる。
学生服越しに、五十嵐くんの体温が伝わってくる。
頭のなかと心のなかの不安をひとつひとつ取り除いていくかのように、彼は私の背中をトントンと叩いてくれた。
ゆっくり、ゆっくりと……。
私の涙が、止まるまで――
ふらっとあらわれては、五十嵐くんはとりとめのない話をしてくれるのだ。
今日も、昼休みに彼はきていた。保健室にあった丸イスに座って、机を挟んで会話をしている。
「五十嵐くん……はヤンキーなの?」
「違うよ。目つき悪いから、なんでかそう見られるだけ。髪の毛も地毛なのに、勝手に勘違いされて困ってる」
「そうなんだ……ごめん、正直私も最初、ヤンキーの人だと思っちゃってた。怪我も、ケンカでもしたのかなってちょっと思ってた」
「星野さん、ひどいなー。あれ、美術の彫刻刀のせいだよ。俺、真面目だから」
彼から真面目という言葉が出たので、ついぷっと吹き出してしまった。
そんな私を見て、五十嵐くんも笑う。
「――やっと笑ってくれた」
「……え?」
「星野さん、全然笑わないなって思ってたから。笑顔見れて、超嬉しい」
その言葉に、私の顔に熱が集まっていく。なんで、そんなこと思ってくれるんだろう。
最初に見た彼の印象とは違う。柔らかな陽だまりのような笑顔が、とても眩しかった。
なんで、私と話してくれるの? そんな質問が喉から出そうで、でも出したらいけない気もして、まごついてしまう。
「あの――」話し始めた瞬間、保健室に生徒が入ってきた。
それは、見慣れた顔。同じクラスの、出口さんと浜田さんだった。
「あれ、先生いないの? 絆創膏もらおうと思ったのに……」
ふたりは保健室のなかを見渡すと、すぐに私に気づいた。
「ああ、星野さんだ。先生いないの?」
いやな汗が背中を伝う。思い出したくもないことが、頭のなかでぐるぐると回りだす。
「い……いません……」
「そう。勝手にもらっていこ」
ふたりはジロジロと私と五十嵐くんを交互に見比べる。
そして絆創膏をいくつか取り、保健室から出ていく。
「アユは学校来れなくなったのに、保健室でいい気なもんだね」
「ほんと、いいよねー」
出ていくときに、ふたりはぼそっと呟く。
いや、わざと聞こえるように話したのかもしれない。
どちらにせよ、私の心に爪を立て、えぐるような言葉だった。
「なに、あの人たち?」
五十嵐くんの質問に答えるより先に、私の目からは涙が零れてしまう。
ぽたり、と机に涙が落ちていく。
「――星野さん、さっきのやつらに変なこと言われた?」
言葉が出てこない。頭を横に振るが、色々な想いが混ざってどう伝えたらいいのかわからなかった。涙が、止めどなく溢れてくる。
「――俺にできることがあったら、言って」
五十嵐くんはそう言うと、白い衝立で私達を隠した。
そして私の頭を、自分の胸に寄せる。
学生服越しに、五十嵐くんの体温が伝わってくる。
頭のなかと心のなかの不安をひとつひとつ取り除いていくかのように、彼は私の背中をトントンと叩いてくれた。
ゆっくり、ゆっくりと……。
私の涙が、止まるまで――