保健室登校
終業のチャイムが鳴ると、すぐに廊下は騒がしくなった。
生徒同士の会話が混ざりに混ざっている。
私は息を潜めるようにして、白い衝立に隠れていた。

「お待たせ、待った?」
聞き慣れた声がする。
五十嵐くんは急いで来てくれたようだった。

「ううん、大丈夫だよ」

「星野さん、家はどこなの?」

「桜が丘の方だけど……」

「じゃ、帰ろう」

彼はそう言うと、私のスクールバッグを持って保健室を出た。
今の時間に帰ると、まだクラスメイトに鉢合わせてしまうかも。
そんな不安が頭によぎる。

「俺がいるから、大丈夫」

私の考えていることを見透かしたかのような言葉。

校門に向かってふたりで歩いていると、顔も知らない生徒がこちらを見て、なにかを話している。

「あれ? 五十嵐くんじゃない? 女連れ?」
「うそ、なにあれ!?」
「相手三年?」

彼はその顔のせいだろうか、やっぱり人気があったみたいだ。
彼みたいなイケメンが私なんかと歩いてたら、悪目立ちしちゃうよね……。

「五十嵐くんの迷惑になっちゃうから、離れて歩くよ」

意を決してそう話すと、彼は私の手首を優しく掴んだ。

「離れないで。迷惑でもなんでもない。一緒にいたいから帰ってる。……星野さんが迷惑ならやめるけど」

握られた手首が熱い。そこから熱が顔まで上がってくるかのようだ。

「わ、わたしは迷惑なんかじゃ……」

「ならいいよね」

横目でほかの生徒を見ると、五十嵐くんを怖がっている生徒や、私を羨ましそうに見ている女子生徒たちがいた。

そんな人の目なんか気にせずに、五十嵐くんは半ば強引に私の手を引き、学校の外に出るのだった。

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